第34話 一粒の麦-1

これまでのあらすじ
 1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。これまで共存していたユグノー(カルヴァン派のプロテスタント)とカトリックの人々との間には、深い対立が生じることになった。多くのユグノーがフランスから亡命し、あるいはカトリックに改宗していったが、南フランスのセヴェンヌには、心の底から改宗したのではない人々が数多く存在していた。

 セヴェンヌのユグノーたちはジュネーヴから説教者としてポワーヴルを呼び寄せることに成功した。ポワーヴルの説教と活動は人々の願いに応え、ユグノーたちは貴族も平民も力を合わせて彼の身の安全を守ることに尽力する。
 しかしながら、弾圧者の目を逃れてポワーヴルを安全な隠れ場に移すことに成功したと思うや、彼はシェーラ司祭の部下ヴィオレットに見つかってしまう。

 シェーラ司祭の部下ヴィオレットは、自分の目を疑った。何しろ十四年前に突然姿を消した人物が目の前に現れたのだから。
 当時十九歳のヴィオレットは自分と同じぐらい若い貴族の従卒を勤めていた。貴族にしては気さくな性格で、けんかっ早いが、根は陽気で人なつっこいところがあった。顔立ちは軍人らしからぬ童顔であったが、軍人の家に生まれ育っただけのことはあって腕前の方は確かで、出世は間違いないと周囲からも思われ、本人もその気でいた。ヴィオレットはそんな主人に仕えることに喜びと誇りを感じていた。
 ところが、訓練期間が終わり、初めての本格的な任務に就くという段になって、彼の主人はいきなり行方をくらませてしまった。いったいなぜそんなことになったのか、同じ部隊の軍人たちに尋ねても誰も何も語ろうとしなかった。
 ヴィオレットはそれから様々な主人に仕えたが、最初に仕えた主人のことをずっと気にかけていた。それが、なんとパン屋の小僧の格好をして登場したのである。驚かずにはいられなかった。他人の空似でないことは確かであった。目があった時の一瞬の表情の変化が、互いに顔見知りであることを雄弁に物語っていた。
「ポワーヴル殿、こんなところでお会いするとは…。」

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