第32話 奇跡-1

これまでのあらすじ
 1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。これまで共存していたユグノー(カルヴァン派のプロテスタント)とカトリックの人々との間には、深い対立が生じることになった。多くのユグノーがフランスから亡命し、あるいはカトリックに改宗していったが、南フランスのセヴェンヌには、心の底から改宗したのではない人々が数多く存在していた。
 セヴェンヌの人々はカルヴァン派の本拠地ジュネーヴから説教者としてポワーヴルを招聘した。この計画を実行に移す最中には本来仲間であるはずの人々の間に様々な誤解や対立が生じることもあったが、問題は一つ一つ解きほぐされていった。
 ある時、ユグノーの貴族コルネリー家の娘マルトが急に重い病気になったが、ポワーヴルはその原因を作り出した若者を探しに馬に乗って出かけていった。

 ポワーヴルと入れ違いにコルネリー家にやってきたセギエは、さっそくマルトの病状を見舞った。セギエは彼女の枕元でしばらく祈りを捧げていた。それからおもむろにコルネリー夫妻に重々しい口調で述べた。
「わしは本当のことしか申し上げません。それでもよろしいでしょうか。」
 夫妻は、マルトには聞かせられない話なのかと察し、彼を別室に招いた。
「エスプリ、言ってくれ。マルトは…。」
「お嬢様のご容態は相当深刻でございます。なにしろ魂が生きる力を失ってしまっておりますから。」
 この言葉を聞いて夫妻は抱き合って涙を流した。
「かわいそうな娘…。」
「どうしてこんなことに…。」
 コルネリー氏は彼自身が生きる意欲を失いかねない面持ちで、エスプリに懇願した。
「エスプリ、本当に手だてはないのか。どんなことでもかまわない。マルトが元気になるのならなんでもしよう。」

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