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第30話 荒野の説教者-9
ガトー師の横に座っている者がなるべく目立たないように身体を揺すぶり、そっと耳打ちして、彼を眠りから覚まさせた。しかしながら、ガトー師は、せっかくの配慮を台無しにするような大あくびをひとつしてこう言った
「ん? ああ、もう会議は終わったのかね。」
また耳打ちがなされた。
「ああ、ポワーヴル君のことか。ええ…、彼がどうしたって? ああ…、そうじゃったな。わしが彼の推薦を頼まれとったのじゃな。」
このおっとりしたものの言い方にいらだって、この人物の言葉を聞くまでもないと考えた者もいた。し
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2008/05/09 08:00 |
第30話 荒野の説教者-8
しかし、この黒ひげのレフォール師の意見に対しても反論が出た。
「今レフォール師が言われたことは、これが学生の修養の場としてなら申し分のない話となりましょう。しかしながら、今回の目的とはちと外れてはおりませんか。そんな理由でこの重大な使命を遂行する人物を選ぶわけには行きませんな。」
議論の決着がなかなか付きそうになかったので、とうとう、保留ということになった。つまり、彼以上の適任者がなければ、彼を派遣するという扱いになったのである。さて、候補者の名簿はあと一名を残すのみになった。
最後
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2008/05/08 00:23 |
第30話 荒野の説教者-7
この教師ならずとも、学生が自分の成績について教師に異議申し立てをするなどとは前代未聞のことであった。そして実のところ、そのような行動を取るこの学生にどう対応すべきか、内心ひどく緊張していたのである。しかしながら、そうした動揺を押し隠して、彼の成績を判断した根拠を提示すると彼は意外にすんなりと納得した。そのことによって、この学生は評判ほど争いを好むわけではなく、むしろ道理を説けば自分の過ちを素直に認めることもできる人物であることを理解したのである。
「しかし、教師の説得に頑なに従わないというの
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2008/05/07 07:59 |
第30話 荒野の説教者-6
批判されたと感じた者が立ち上がり、語気を荒げて言った。
「なにをおっしゃる。あなたはわしの信仰が足りないとでもおっしゃるのか!」
これに対して周囲の者がなだめにかかった。
「セルリ師がおっしゃられたのはそんなことではないでしょうに。」
「それよりも、早く本来の議題に立ち戻らなくては。もうこれ以上この問題にかかわってばかりいるわけにはいきませんぞ。他にも議題は山のようにあるのだから。」
この意見には、会議の参加者のすべてが納得した。
「わしの考えでは、その学生がそのような名を名乗る
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2008/05/06 00:12 |
第30話 荒野の説教者-5
ジュネーヴ学院が出した志願者の名簿にはあと数人しか名前は残っていなかった。その一人がディマンシュ・ブライユであった。
「この学生は飛びぬけて成績優秀で、ほとんど常に首席を維持してきました。出身はボルドーで、セヴェンヌに滞在したこともあり、かの地をよく心得ております。」
ジュネーヴ学院の教授の一人が彼を推薦した。しかしながら、ここでやはり例の問題が槍玉に上がった。
「しかし、この名はいったいどういうことかね。カルヴァン師の定めた規則を知り尽くしているはずのジュネーヴ学院が、学生にこんな名
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2008/05/05 09:36 |
第30話 荒野の説教者-4
会議にはジュネーヴ学院の教授たちだけでなく、ジュネーヴ市民の代表者も参加していた。カルヴァンによって、会議の場には、聖職者だけでなく非聖職者の代表も参加しなければならないと定められていたのである。
「このシブレットなる学生、妻帯者だということじゃが、学生の身で結婚などするような軽率な人間では、この厳しい任務は勤まらんのじゃないか。」
「しかしのう、お言葉じゃが、学生の身で結婚することがなぜ軽率といえるのかな。むしろ責任ある態度じゃと思うが。」
「いやいや、学業に打ち込むべき時期に女と暮ら
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2008/05/04 09:21 |
第30話 荒野の説教者-3
ディマンシュがアルに手紙を出してからまもなく、ジュネーヴの主要な職務についている人々の間で、セヴェンヌに派遣する説教者を決定する会議が開かれた。セヴェンヌの村から説教者の派遣を求める要請文が届いて以来、すでにこれまで幾度か会議が開かれていた。
最初の反応はどちらかと言えば重苦しいものであった。フランスでのカルヴァン派が非合法化されてもう十年以上になる。多くのユグノーが組織立った反撃をすることもなく国外に追い散らされていった。もちろん、これまでもジュネーヴに亡命してきた牧師たちが何人もフラン
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2008/05/03 00:35 |
第30話 荒野の説教者-2
それは彼の手紙にしてはめずらしく興奮した調子で書かれていた。
「アル、君にこれまでで最も喜びに満ちた便りを書くことができそうだ。といってもまだはっきりと決まったわけではないので、ぬか喜びは禁物だ。しかし、万が一それが実現しないということになっても、今この瞬間、ぼくの心がとてつもなく歓喜に弾んでおり、君にこんな手紙を書かずにはいられないということを知ってほしい。詳細を書くわけにはいかないが、現在ある事業について要員の募集がなされている。ぼくはその事業に志願することにした。自分で言うのもなんだが
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2008/05/02 11:36 |
第30話 荒野の説教者-1
これまでのあらすじ
1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。これまで共存していたユグノー(カルヴァン派のプロテスタント)とカトリックの人々との間には、深い対立が生じることになった。多くのユグノーがフランスから亡命し、あるいはカトリックに改宗していったが、南フランスのセヴェンヌには、心の底から改宗したのではない人々が数多く存在していた。
人々は自分たちの信仰を守り抜くために様々な試みをおこなっていた。そのうちの一つに
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2008/05/01 00:23 |
つながる歌 つながる舞 つながるいのち
つながる歌 つながる舞 つながるいのち
―戦争と女性の人権博物館建設のためのチャリティコンサート―
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2008/04/30 07:58 |
慧眼なる読者との対話(30)
第29話までお読みいただいた皆様、ありがとうございます。最も非力な者が何らかの能力を持った者以上の働きをしたり、困難を乗り越えて友情がより強固に結ばれたりと、使い古された設定ではありますが、このような素直な展開も気に入っております。
次回は久しぶりにジュネーヴの場面もあります。題して「荒野の説教者」。いよいよ本題に入ってくる感じですね。
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2008/04/30 07:58 |
第29話 最強の門番-29
「ロラン、これを食えよ。みんなもどうだい。」
空腹だったのはロランだけではなかったので、袋はあっという間に空っぽになった。
「アル…、これ、デュプランさんの店のお菓子だよね。」
ジャンが恐る恐る言った。
「へえ〜。あのパン屋、性格は悪いが腕前はたいしたもんだ。」
マゼルが最後のひとかけらをほおばりながら言った。
「うん、うん。」
ロランもマゼルに同意した。彼も菓子で口をいっぱいにしていたので、うなずくことでその意を表現した。
しかし、ジャンは心配そうに言った。
「これ
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2008/04/29 08:19 |
第29話 最強の門番-28
これでこの騒動が終わったと見るや、見物人は三々五々帰っていった。広場に残ったのは、ロランたち四人だけであった。ロランはひどく憔悴し、しょげていたが、縄をほどいてもらいながら、やがて、ぽつり、ぽつりとしゃべりだした。
「すまねえ…。本当に…。こんなにみんなに迷惑をかけることになるとは、思ってもみなかった…。」
「いやあ、まったくあの男の強さには驚いたぜ。いやはや、おれは今まであんな強いやつに出会ったことがなかった。ロラン、おまえ、あんなやつに勝負を挑んだのか。すげえじゃねえか。」
マゼル
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2008/04/28 11:53 |
第29話 最強の門番-27
マクシミリアンは眉を吊り上げて、ただでさえ恐ろしげな顔をいっそう迫力に満ちたものにしながら、ジャンの方へ近寄ってきた。ジャンはその場に踏みとどまり、観念したように目をつぶって頭を垂れた。
その光景をようやく意識を回復したアルとマゼルも見た。二人とも身体の自由はまだ利かなかったが、その分声を張り上げた。
「よせ! そんな小さな子に何をするんだ!」
「やめろ! あいつを殴るくらいなら、おれをもう一度投げ飛ばしてくれ!」
マクシミリアンはそんな声をものともせずに自分の拳骨に息を吹きかけて
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2008/04/27 09:15 |
第29話 最強の門番-26
マクシミリアンはその少年の存在にすぐに気がついた。
「おまえも、こいつの仲間か!」
マクシミリアンの声がとどろいた。ジャン・カヴァリエはその雷鳴のような声に直撃され、その場から動けなくなってしまった。何か言おうにも身体が震えて声が出なかった。しかし彼の代わりに、マゼルの下敷きになっていたロランが力を振り絞ってこう言った。
「よせ…、そいつは関係ねえ…。おれはそんなやつなど見たこともねえ。」
ロランはそう言いながら、必死でジャンに向かって目配せをした。
「あの男はそう言っているが、
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2008/04/26 09:56 |
第29話 最強の門番-25
大男がロランの方を向いているのをいいことにマゼルは男の背後に忍び寄ると、いきなり男の背中にしがみついた。
「アル、今だ! ロランを連れて逃げろ!」
アルはマゼルの声に応えて、ロランの縄をほどこうとした。しかし綱は固く結ばれ、なかなかほどけなかった。マゼルは自分が男の動きを封じているのに、アルがもたもたしているのに我慢ならなくなり、男の手から直接縄をもぎ取ろうとした。すると、マゼルがそうするのを待ち受けていたかのように、マクシミリアンは自分からさっと綱を離すやマゼルの腕を取り、そのまま投げ
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2008/04/25 08:56 |
第29話 最強の門番-24
「ロラン! そんなこと嘘だって言ってくれよ!」
アルが悲痛な叫びを上げたが、ロランが泣きそうな声でぽつりと言った。
「すまねえ…。みんなを巻き込むつもりなんかなかったんだ。」
それを聞いてアルは、この男の言うとおり、ロランがこの男の主人の屋敷に忍び込もうとしたことは確かなのだということがわかった。
ここでアルのとるべき道は二つしかなかった。そんなことをする人間は自分の仲間ではないと言って、この場から逃れ去ること、もう一つはロランがたとえどんな罪を犯したとしても、彼を見捨てないことで
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2008/04/24 06:31 |
第29話 最強の門番-23
アルの言葉に対して相手も言葉で応酬してきた。
「なら、この男が屋敷に忍び込もうとした罪をおまえも引き受けなければならない。」
「なんだって?」
「この男は、ご主人様の屋敷に塀を乗り越えて忍び込もうとしていたのだ。」
「そんなこと…、そんなことロランがするはずがない!」
「では、この男に尋ねてみるがいい。」
ロランはさっきからの事態の成り行きにあっけに取られていた。昨日自分がこの男にやられたのは、半ばは自分が手出しできない状況にあったからだと考えていたが、マゼルとの正面からの勝負で
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2008/04/23 06:45 |
第29話 最強の門番-22
マゼルのこぶしはうなりを上げながら相手の顔面に向かって行った。しかし、マゼル渾身の一撃はあえなくかわされて空を切り、その代わりに逆に相手の一撃をまともに顔面にくらってしまった。
「ぐあっ!」
マゼルは思わず手で顔面を押さえたが、その手のひらから血が滴りおちた。それを見てジャンは悲鳴を上げてその場にへたり込み、アルはマゼルのそばに駆け寄った。
「マゼル、大丈夫か?」
「ああ…、心配いらねえ…。こりゃただの鼻血だ…。」
そうは言うものの、マゼルはひどく苦しげであった。マゼルの顔面に
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2008/04/22 08:03 |
第29話 最強の門番-21
ジャンは群衆の中にもう一度戻ると、すぐにアルとマゼルを探した。マゼルは誰かれかまわず怒鳴りつけていたし、アルはそんなマゼルが喧嘩を引き起こしそうになるのを止めるのに苦心していたので、すぐに見つかった。そして、ジャンは自分が見たことを二人に話した。
「なんだって!」
「ロランのやつそんな目にあっていたのか!」
二人ともすぐに助けに行かなければ、ということで意見が一致した。しかしジャンは、ロランを捕らえている男の恐ろしさを語った。
「あいつ…、すごく大きくて、とてもこわい顔してるんだ。も
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2008/04/21 07:46 |