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日 時 |
第42話 その名は“カミザール”-7
こうしてセルヴァ城の守備兵はわずかな手勢によってみな捕縛されてしまった。中庭に並べられた捕虜たちをサロモン・クデルクは憎々しげににらみつけ、剣を振りかざした。
「こいつら…、殺しても飽きたらぬ。」
サロモンのいとこのジャックはドゥベーズの城で射殺され、弟のジャンはジェデオン・ラポルトと同じ時に殺されていたのだった。兄の方のランポンがサロモンの殺気だった様子に気がついて彼を止めた。
「待て、サロモン。捕虜の処遇についてはあの時エスプリがやったようにするんだ。それがエスプリがおれたちに残し...
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2009/11/07 08:09 |
第42話 その名は“カミザール”-6
しかし、その数秒後、獲物を追い詰めたはずの兵士たちが逆に自分たちが追い詰められていたことに気がついた。残りの五人の捕虜たちがいつのまにか縄を手にして背後に立っていたのである。彼らをしばっていたはずの縄は、実は縄抜けをするまでもなく簡単にほどけるようになっていた。
今度は兵士たちが縄でくくられ、武器も軍服も奪われて裸同然にされた。捕虜のふりをしていた男たちは奪ったばかりの軍服を着て兵士に変装した。
「軍服が一人分足りないな。」
「ディマンシュ、君の顔の血のりはぬぐっただけじゃ取れそうにな...
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2009/11/06 08:50 |
第42話 その名は“カミザール”-5
数日後、アレスの守備隊が駐屯しているセルヴァ城に、将校とその従者が、縄で後ろ手に縛った六人の男たちを連れて入っていった。堂々たる体躯の将校はブログリ伯爵とバヴィル知事の署名の入った命令書を示してこう言った。
「この連中が教会に火をつけようとしていたところを捕らえてきた。これからモンペリエに連行するところだが、この城で休息させていただきたい。」
将校は若くて少年のような華奢な体つきの従者とともに城内に温かく迎えられた。彼らはこの城内の守備隊の隊長と食事を取る手はずとなった。一方、捕虜たちは...
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2009/11/05 08:20 |
第42話 その名は“カミザール”-4
ディマンシュがおもむろに立ち上がって言った。
「説明しておこう、カスタネ。我々の間には主従関係はない。皆等しく同じ信仰で結ばれた平等な仲間なのだ。」
「ふ〜ん、仲間だってのはわかるが、こんなガキとも同じ扱いを受けるのか?」
カスタネはジャン・カヴァリエを指さした。
「カスタネ、そいつをあんまりみくびらねえ方がいいぞ。そいつはおれたちの中でジェデオン・ラポルトとの勝負に勝った唯一の男だ。」
ロランが笑みを浮かべながら言い、ディマンシュとマゼルが同意の印にまじめな顔でうなずいた。ジャ...
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2009/11/04 08:18 |
第42話 その名は“カミザール”-3
「おい、今の誰だっけ。」
「えーと、身なりからしてどこかの部隊の将校だろう。そういえば、おれたちはこの首が盗まれないように見張れっていう命令しか受けてないんだから…。」
「そうだったな。もう少しで命令されていないことをしてしまうところだった。不審なやつを逮捕するのはあの男の任務ってわけだな。」
役人たちは自らの任務を全うしたが、カスタネを連れて行った大男が反乱軍の一員かもしれないということまでは気が回らなかった。
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2009/11/03 09:19 |
第42話 その名は“カミザール”-2
見張りの役人はつっけんどんに言った。
「謀反人の末路だ。」
「いくら謀反人だかなんだか知らねえが、こんなやり方はねえだろ!」
「どうやらおまえは謀反人の仲間らしいな。」
「はあ? こいつらの顔なんぞ見たことないっていうのに?」
「嘘をつけ!」
「本当だとも。」
カスタネは中央におかれたその首をもう一度見た。そしてそこにある名札が目に入った。
「なんだって…、ジェデオン・ラポルト?」
「やはり知り合いなのだな。」
「知り合いになる前にこんな無惨な姿になっちまって…。」
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2009/11/02 08:45 |
第42話 その名は“カミザール”-1
これまでのあらすじ
1685年以来信教の自由を奪われていたフランスのユグノーは、1702年7月24日ポン・ド・モンヴェールにおいて迫害者の一人シェーラ司祭の館を襲撃した。その首謀者であったピエール・セギエは処刑され、その後を引き継いだジェデオン・ラポルトもプール隊長との戦いに敗れて戦死した。
北西セヴェンヌのエグアルにアンリ・カスタネという二十九才の男がいた。彼には「熊小僧」というあだ名がついていたが、その名の通り、背が低く毛むくじゃらで猛々しい男であった。彼は十二歳の時までは存在して...
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2009/11/01 09:58 |
慧眼なる読者との対話(42)
読者の皆様、第41話はいかがでしたでしょうか。戦場ではほんのわずかな気負いや焦りや油断が死につながります。その峻厳な戦場の法則はラポルトをも例外とはしませんでした。彼の死はあっけないものでしたが、彼の死は残された若者たちに大きな影響を与えます。親の子どもに対する最後の教育は“親の死”だといわれますが、二十代が中心の若者たちの中で四十代のラポルトは彼らにとって父親のような存在でした。
一方、国王軍は、反乱が起きるのはそれを煽り立てる首謀者がいるからだという考え方から一歩も出ることができません...
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2009/10/31 09:03 |
第41話 カミゾを着る者たち-30
ジェデオン・ラポルトと十二人の仲間の首はプール隊長の剣によって斬り落とされ、顔をむき出しにするために髪は頭頂部で無造作に紐でくくられた。胴体は道に放置され、野犬が食い荒らすがままになった。兵士たちは十三の首を銃剣の先に突き刺して街々に運んだ。
十月二十六日、アンデューズでは、町の入り口の橋の上に長い板の台が設置され、その上に首が並べられた。橋を通る人々は否が応でもその無惨な首を見る羽目になった。多くの人が目を背けながらその橋を渡っていった。
しかし、そこへ数人の若者たちがやってきた。彼...
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2009/10/30 08:32 |
第41話 カミゾを着る者たち-29
マゼルたちが兵舎を後にした直後に、プール隊長の部隊はその兵舎にやってきた。扉はたたき壊され、中は荒らされていた。
「連中め! まだ懲りぬと見える!」
プール隊長は怒りに満ちて、反乱者を追跡した。夜になって寒さはいっそう激しくなり、雨は吹雪に変わった。この天候の変化は、逃亡者よりも追跡者に不利に作用した。
「隊長、何も見えません!」
「くそ!」
プール隊長は一晩中捜索をおこなったが、逃げた反乱者を誰一人見つけることはできなかった。
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2009/10/29 08:37 |
第41話 カミゾを着る者たち-28
「ああ。あの連中はおれたちを蹴散らしたことで安心している。まさかおれたちがそんな行動に出るとは思わないだろう。」
「しかし、銃は使い物にならないぜ。」
「斧があれば十分だ。」
自信満々で言うマゼルに他の者たちはだんだんその気になってきた。なんと言ってもマゼルは反乱の皮切りとなったメゾン・アンドレ襲撃事件の参加者の一人であった。
「よし、行こう!」
一人も脱落者を出すことなく、マゼルはポンピドゥの兵舎にたどり着いた。兵舎といっても、小隊が駐屯できる程度の小さな掘っ立て小屋で、しかも兵...
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2009/10/28 09:16 |
第41話 カミゾを着る者たち-27
ラポルトたちの持っている銃は旧式の銃であった。それに対して国王軍は雨中での発射が可能な最新式の銃を装備していた。
「さんざん面倒をかけさせてくれたな。今度こそお終いだ!」
プール隊長は攻撃命令を出した。
雨はたちまち激しさを増し、豪雨となった。ラポルトたちの銃はほとんどが不発に終わったが、国王軍の側からは大量の銃弾が発射された。その銃弾の一つがラポルトの心臓を貫いた。
ラポルトは声もあげずにその場に崩れ落ちた。さらに何人もの仲間がこの攻撃で倒れるのをマゼルは見た。
「みんな逃げ...
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2009/10/27 10:16 |
第41話 カミゾを着る者たち-26
十月二十三日、ジェデオン・ラポルトの部隊は八十人ほどでポン・ド・モンヴェールに近いカヌルグの村を行進していた。ポンピドゥの兵舎を襲撃する予定であった。空には黒雲が厚く垂れ込め、冷たい強風が吹いていた。この時の隊列にはマゼルがいた。マゼルは急に悪い予感に襲われた。
「ラポルトさん、なんだか大雨になりそうな気配だな。」
「うむ。目的地まで急ごう。」
ラポルトが歩みを早めるよう指令を出した時、前方に武装した部隊が見えた。国王軍の一隊であった。
「しまった。引き返そう!」
ところが後方に...
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2009/10/26 09:30 |
第41話 カミゾを着る者たち-25
ラポルトはもうすっかり余裕の表情であった。するとディマンシュが言った。
「私はジャンを応援します。よろしいですか。」
「ああ、せいぜい、しっかり応援してくれ。」
ジャンの手はラポルトの手をかなりのところまで追い詰めた。
「ほお、ジャンがこんなに強くなったとは…。」
そうは言いつつも、ラポルトは余裕の表情を崩さなかった。彼は自分の手の甲が台の上につくぎりぎりの所で押し返し、力の差を見せつけるつもりであった。しかし、次の瞬間、誰にとっても全く意外なことが起こった。ラポルトがいきなりぷ...
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2009/10/25 09:18 |
第41話 カミゾを着る者たち-24
「マゼル、おまえから行くか。」
「ラポルトさん、おれを以前のおれだと思ったら大間違いだぜ。」
二人は台の上に腕を出し、手をがっしりと握りあった。しかし、マゼルは最初の勢いとは裏腹に、簡単にねじ伏せられてしまった。
「まだまだだな。」
「くっそお!」
悔しがるマゼルを尻目にロランが名乗りを上げた。
「ラポルトさんを倒すのはこのおれだ!」
「おまえは確か左利きだったな。左で相手をしてやろう。」
「ラポルトさん、おれをそんなに甘く見ない方がいいですぜ。」
「ロラン、そういうこと...
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2009/10/24 09:29 |
第41話 カミゾを着る者たち-23
「今はみんなのやる気が高まっている時だ。そんな時に、おれが姿を隠して安全なところから命令だけ下すなんて、そんなことをするくらいなら死んだ方がましだ。」
しかし、マゼルがめずらしくディマンシュの意見を支持した。
「しかし、ラポルトさん、この似顔絵はなかなかよくできてるぜ。」
「ふん、おれはこんな恐ろしげな顔をしているというのか。」
「え、いや、特徴をうまくつかんでいるかなと。」
「同じことだ。おれはこんな人相書きなんかでびくびくしない。これはむしろ向こうが焦っている証拠だ。正面切っての...
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2009/10/23 09:21 |
第41話 カミゾを着る者たち-22
ロランはその人相書きを見つけると、それを破りとってラポルトの前に持ってきた。
「ラポルトさん、こんなものが!」
「知っている。」
すでにラポルトの前には問題の人相書きが何枚も置かれてあった。
「大丈夫だ。ロラン。これを見た者たちはみな国王軍に通報するどころか、おれにこんなものがあることを知らせてきてくれているんだ。」
そこへ今度はマゼルが飛び込んできた。
「ラポルトさん! これを見てくれ!」
マゼルもまた人相書きを手にしていた。
「マゼル、そんなにあわてなくともラポルトさ...
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2009/10/22 14:30 |
第41話 カミゾを着る者たち-21
アレクサンドル・ド・ピュイマルセはよく働いた。彼がつい先日まで崇拝していたはずの聖人像を打ち壊すことも難なくやってのけたし、詩編歌もすぐに覚えて歌えるようになった。この新しい仲間を得たことで、元からいた者たちも負けじと活気づいた。ラポルトの部隊は、彼から国王軍の配置やその勢力を細かく聞き出すことができて、いっそう効率的に相手を翻弄しながら教会や貴族の館を襲うことができた。
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2009/10/21 08:50 |
第41話 カミゾを着る者たち-20
ジャンはこれまで預言者運動でそれなりの働きをしてきたし、ジュネーヴで多くのことを学んできたつもりであった。そして国王軍相手に武器を取って闘ってきたという自負もあった。しかし、マリエットの指摘によって、自分がくだらない嫉妬心に駆られた愚かな男でしかないことをはっきりと自覚した。
「マリエット…、君の言うとおりだ。君の方がおれよりもずっと戦士らしい。それに比べておれはなんて情けない男なんだ…。」
「ジャン、あたしたちはもっともっと強くならなくちゃ。だって…。」
マリエットはそこまで言うと、...
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2009/10/20 09:10 |
第41話 カミゾを着る者たち-19
「ジャン、あなたはあたしが心変わりする女だと思うの?」
「い、いや…、とんでもない。」
「あたしの心が誰にあるのか、あなたにはわかっていると思ったのに。」
「えっ?」
ジャンは彼女の言葉に一瞬どぎまぎした。しかし、周囲の女たちによって彼のうぬぼれは即座にくじかれた。
「そうよ。マリエットは今でもポワーヴル先生に一途なんだから。」
「ジャンったら、あんな男にマリエットが心を移すとでも思ってるの?」
マリエットはおごそかに言った。
「そうよ。先生が天に召されてもあたしの心は変わら...
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2009/10/19 09:15 |