サクラサク読書案内(15) のぞゑのぶひさ・岩田和博『神聖喜劇』

 大西巨人の小説『神聖喜劇』を漫画にしたものです。難解な小説だと思われていますが、そんなことはありません。主人公東堂太郎も、登場する様々な人々もみんなキャラが立っており、そのぶつかり合いが、ある時は深刻な、ある時は笑える場面になっています。
 小説で経過する期間は1942年1月から4月までのわずか3ヶ月であり、しかも、その舞台は対馬の要塞司令部と連隊本部の屯営に限られています。そこで補充兵として教育を受ける東堂太郎たちの日常生活が微細に描かれます。
 しかし、これは同時に日本社会の縮図でもあります。軍隊の中でも一般社会と同じ差別がまかり通り、無責任体制が支配しています。
 初めは「滑稽で悲惨な生」に終止符を打つつもりでいた東堂でした。しかし、軍隊内で教えられていないことでも「知りません」と言うことは許されず、「忘れました」と言わねばならないというやり方にどうしても我慢ができなくなります。それは東堂が異常な記憶力の持ち主であり、一度言われたことは絶対に忘れることができないという能力を持った人物だからでした。こうして、東堂の記憶力を駆使した闘いが始まります。
 この痛快さも見所の一つですし、また、ことあるごとに東堂は自分の体験を思い出します。それが、3ヶ月間に止まらない昭和初期の日本社会の重要な問題を読者にたどらせることになります。
 東堂が思い出すのは歴史的なことだけではありません。自分が読んだことのある様々な文学作品までも一字一句思い出すのです。そういう意味では文学史の勉強にもなります。(かなりマイナーなものもたくさんありますが)

 こんな小説を漫画化するのには10年もかかったそうです。漫画家にあたって大西巨人本人もいろいろと注文をつけつつも、基本的には漫画と小説は別々の表現形式であることを理解し、漫画の表現を尊重しています。
 私自身、漫画として非常によくできていると思います。特に大前田軍曹が原作からそのまま出てきたような、これ以外には描きようのない姿で描かれています。
 惜しむらくは、視覚化してほしいと思うような小説での愉快な場面がいくつも省略されているという点です。
 漫画でこの小説を知ったら、ぜひ小説の方も読まれることをお勧めします。東堂がすまし顔をしている裏で何を考えているのかがつぶさに描かれています。
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