夏休みの読書案内 佐藤賢一『二人のガスコン』

『二人のガスコン』と言えば、もちろん、ダルタニャンとシラノ・ド・ベルジュラックのことです。二人とも、歴史的人物でありながら、それ以上に、物語のキャラクターとして有名な人物です。
デュマの『ダルタニャン物語』(第一部『三銃士』・第二部『二十年後』・第三部『ブラジュロンヌ子爵』)も、ロスタンの『シラノ・ド・ベルジュラック』も何度も映画化・舞台化されています。『鉄仮面』は、『ブラジュロンヌ子爵』の一部をなす作品です。
 
 佐藤氏は、主にヨーロッパを舞台にした歴史小説で有名な方ですが、『ダルタニャンの生涯』のような歴史研究にも優れ、この小説はまさにその綿密な実証に基づいています。
 佐藤氏のこの小説では、史実と小説とがうまくミックスされ、ダルタニャンのファン、シラノのファン──おそらくこの両者はかなり重なっていると思われますが──の両方にとって、おいしい小説になっています。

 小説に描かれた時代としては、『ダルタニャン物語』で言えば、第二部『二十年後』の数年前にあたる頃です。
 冒頭は、ガゼット紙に掲載されたダルタニャンの動向から始まります。「ガゼット」というのはリシュリュー枢機卿の時代に創設された新聞で、性格としては官報のような物でした。新聞が、一般大衆向けに情報を伝えたり、時には政府批判をしたりするようになるのはまだまだ先のことですが、この小説ではそのような時代の到来を予期させるような青年がオリジナルキャラとして登場しています。(ちょっとヘタレですが。)

 しかし、この時期のダルタニャンは実のところパッとしません。銃士隊は解散させられ、かつてロシュフォール伯爵がリシュリュー枢機卿の下でおこなっていた仕事をマザランの下でやるはめになっていました。つまり、マザランのスパイでした。
 そんなダルタニャンはマザランから新しい任務を命令されます。それはある女性の動向を探れ、というものでした。しかも、その任務の相棒としては、あのシラノが任命されます。
 この時期のシラノもやはりパッとしない状況にありました。ガスコン青年隊からは退役し、作家として食べていこうとはしていましたが、作品はあまり売れていません。自分の作品の熱心な愛好者である菓子屋のラグノオや親友のル・ブレの援助なしには生活が成り立たないという有様でした。
 そんな二人がコンビを組まされることになって、最初は大げんかとなります。しかし、『三銃士』でも、ダルタニャンがアトス、ポルトス、アラミスの三銃士と決闘の約束をする場面から始まるのですから…。

 このあとの展開についてはネタバレにならないように気をつけて、王家の重大な秘密に関わる、あの問題であるとだけ述べておきましょう。
 この謎そのものは『鉄・仮・面―歴史に封印された男』を読んでいれば、だいたい見当がつくのですが、最後の二人の大立ち回りは実に見ものです。

 デュマやロスタンの物語に登場した人物のその後が、次々と描かれるのには、懐かしさでいっぱいになりました。
かつての銃士隊隊長のトレヴィル殿、ガスコン青年隊のカルボン隊長、この二人の上司がそれぞれ年を取っての登場には、つくづく時の流れを感じさせられました。
 『シラノ』では地味な役回りのル・ブレやラグノオが、それぞれの持ち味を出して、なくてはならぬ役割を果たしているのが、実に愉快でした。
 そして、ロシュフォールがいつものようにダルタニャンの仇敵として大活躍しているのもうれしい限りでした。
 細かいところでは、『三銃士』に枢機卿の護衛士としてダルタニャンらと剣を交える者たちの中にビカラという人物がいます。(実は我々のかなりのお気に入りです。)
 デュマが『ブラジュロンヌ子爵』でビカラの息子を登場させた時、デュマも気に入っていたんだなあとつくづく思っていたら、この小説でもちゃんとビカラのその後の消息とその息子が描かれていました。
 マザランについては、この小説でかなり株が上がりました。アンヌ・ドートリッシュと秘密の結婚をしたというエピソードもこの小説で重要な位置を占めていますし、『三銃士』で描かれたリシュリュー枢機卿の首飾り事件の真の動機まで明らかにしたのは感心しました。

 というわけで、ダルタニャンやシラノのファンなら、ぜひ一読を。

実を言えば、『陽気な日曜日』を2005年12月からブログに発表し始めたのは、佐藤氏のことを強烈に意識したからでした。
というのも、『二人のガスコン』(2001年発表)は、時代や登場人物が『ガスコーニュのつわものたち』と、もろにかぶっていますし、さらに2003年に発表された『オクシタニア』は南フランスを舞台にした“異端”とされたカタリ派との戦乱を描いたもので、13世紀と18世紀初頭という時代が違うだけで、『陽気な日曜日』と場所もテーマもこれまたかぶっています。
 というわけで、佐藤氏が「カミザールの乱」を小説化しようと試みないうちに、先に発表してしまわねば、とひやひやしながらのブログ連載開始でした。
幸い、今のところ、杞憂に終わったわけですが、佐藤氏の小説から影響を受けてしまわないように、読むのをずっと封印していました。それがこのたび、『ガスコーニュのつわものたち』の第一部終了を機に、ようやく解禁したというわけです。
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