第58話 自由への疾走-1

 1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。迫害に耐えかねたユグノーによって「カミザールの乱」が引き起こされ、南フランスのセヴェンヌは2年にわたり反乱軍の影響下にあった。
 ヴィラール元帥の登場でカミザールはほぼ壊滅状態に追い込まれたが、それでもなお信仰の自由を求め続ける人々は様々な形で抵抗を続ける。
 ヴィラール元帥が提起した「和解」を取り持ってしまったシャルロットを巡ってガブリエルとサラが対立する。それをジュネーヴから戻ってきたディマンシュが仲裁し、シャルロットに新たな任務を要請する。


「そうと決まればあんたも仲間だ。」
 サラはシャルロットを抱擁しようとして、自分の身体が葡萄酒まみれなのに気が付いた。
「おっと、このままじゃいけないね。ちょっと着替えてくるか。ガブ姉さんもいっしょに来て。あんたたちはその小屋の中で待ってておくれ。」
 サラの指示通り、ディマンシュは小屋の中でシャルロットと共に、二人が着替えて戻ってくるのを待つことにした。
 シャルロットはあらためて農婦姿のディマンシュを眺めてみたが、どこからどう見ても本当の女性にしか見えなかった。ディマンシュはシャルロットのそんな視線に気が付いたのか、逆に彼女の服装を値踏みするような眼でじろじろと見つめた。
「ところで、シャルロット、その農婦の衣装はどうやって手に入れたんだ。」
「これは、わたしがアルと一緒に暮らしていた時に着ていたものよ。屋敷に連れ戻されてから捨てられたのかと思ってたけれど、リュックじいさまが捨てずに取っておいてくれてたの。衣装箱の底から見つかったのよ。」
「なるほど。で、君がそんな格好で自由に出歩くことをルール氏は許しているのかね。」
「いいえ、とんでもないわ。あ、あの時以来…。」
 こうして無事でいるとはいえ、ディマンシュを捕まえて悪党どもに引き渡す羽目になってしまった事件のことをもう一度口にしなければならないかと思うと、シャルロットは羞恥心と罪悪感で耳まで真っ赤になった。ディマンシュは、「あの時」が何のことを意味するのかすぐにわかったらしく、聞き返すようなこともせずに、つっけんどんに結論だけを言った。
「外出禁止になったんだな。」
「ええ、その通りよ。厩には鍵までかけられてしまったの。わたしが勝手に馬に乗って出かけられないようにって…。」
「で、それでどうやって屋敷を出ることができたのだ?」
「時々物売りがやってくる裏口がいつも開いているのがわかってたから、この姿に着替えて、そこからそっと抜け出したの。」
「ふうむ…、ぼくがルール氏なら、その裏口にも錠前をかけておくか、あるいは見張りを立てるかするが…?」
「でも、幸い誰にも見とがめられることはなかったわ。」
「幸い?」
 ディマンシュは難しい顔をして腕を組んだ。
「これから我々がやろうとしていることは、そんな偶然の僥倖を当てにしてはならない。君は確実に外出の自由を手に入れなければならない。しかもそんな変装をすることなしにだ。我々に必要なのは、いかにもあやしげな農婦ではない。」
「まあ、あやしげな農婦だなんて!」

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この記事へのコメント

ヒッピー
2011年12月01日 09:25
いよいよ始まりましたね。楽しみにしていました。

本当のことを言いますと、今日覗いたのは再開一日前と勘違いしていて、「いよいよ明日再開ですね」と書き込もうと思ったんです。そうしたら、もう再開されていて…(笑)。
2011年12月01日 17:25
きょうから12月。冬将軍を連れて、すずなさんが戻って来ましたか。寒さは季節のせいでSUずなさんのせいではないけど・・・。
ディマンシュは相変わらずシャルロットにはクール。前はシャルロットが惚れないように。あるいは美しい彼女に自分が変な気を起こさないように、わざと冷たくしているのかと思ったが、ディマンシュの場合はそうでもなさそう。
でもただ、優しいだけでも、冷たいだけでもない。サラにボディスラムで地面に叩きつけられる危険からは守れた。
2011年12月02日 02:45
1ヶ月ぶりの陽気な日曜日! 心なしかディマンシュも生気に溢れているように見えますね。いろいろと疑ったり考えたりしている方が活き活きとしている男。

佐久間「ディマンシュ、女装しているときは活き活きしているなあ・・・とか思っていないか、アッキーよ。」
アッキー「え、ななな何ですか? そそそ、そんなこと、これっぽっちも思っていませんよ?」
2011年12月02日 09:23
ヒッピーさん、楽しみにしていただいていてありがとうございます。今回の題名のとおり、突っ走っていこうと思います。
2011年12月02日 09:30
ブラックホークさん、ナポレオンも勝てない冬将軍と共に戻ってきました!

相変わらず深い読みを見せるブラックホークさん。普通ならヒーローとヒロインが二人だけでいる場面では何かかが起こるのが通例ですが、そんな絶好のシチュエーションでもディマンシュは至って冷静です。
前回の最後でシャルロットへの文句を言っていましたが、まだまだ言い足りなかったようです。
2011年12月02日 09:35
アッキーさん、生気に溢れているのは、新しい策略を考えているからであって、決して女装をしているからではありません。ねえ、ディマンシュ、そうでしょう。
ディマンシュ「当然です。強いて言えば、一刻も早くこの忌々しい服を着なくても済む状況にしていきたいという衝動が働いているからかもしれません。」
奄美の黒兎
2011年12月03日 09:38
うまく外に出られたと思ったら実は尾行されていてアジトごと一網打尽に…。などと一瞬思いましたがルールさんはそんな人じゃないですね。絶対外出させない。だから今回のことは本当に偶然。

陽気な日曜日連載再開!
2011年12月04日 11:42
奄美の黒兎さん、お久しぶりです。
ルールさんは、娘の幸せ(と自分で思いこんでいること)のためなら結構どんなことでもしますが、そうでなければ基本的には穏当なことしかしませんね。
偶然を当てにしないディマンシュ。さて、彼の策略は…。

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