第55話 武勲詩の顛末-1

 1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。迫害に耐えかねたユグノーによって「カミザールの乱」が引き起こされ、南フランスのセヴェンヌは2年にわたり反乱軍の影響下にあった。
 ヴィラール元帥は、カミザールの首領の一人ジャン・カヴァリエに信仰の自由をちらつかせてパリに呼び寄せ、スペイン継承戦争に彼らを投入しようとした。それを察知し、自らの間違いを悟ったジャンは亡命する。一方、セヴェンヌに残されたカミザールは…。

 セヴェンヌの山々は夏の日差しを浴び、その瑞々しい生命力をみなぎらせていた。栗の木は陽光を捕らえるために大きな葉を広げて秋の実りの準備をし、暑さに誘われて地中から姿を現した蝉は命を次世代につなぐための歌を精一杯歌っていた。そして自然が作り出した無数の洞穴は、この山に生まれ育った者たちが身を潜めるためのねぐらとなっていた。
 その洞穴の一つに、息せき切って走ってくる者がいた。ディマンシュであった。いつも慎重にあたりを伺いながら歩いてくる彼にしては珍しいことであった。しかし、急ぎながらも追跡者の存在を想定して、いくつもの迂回路を通って来ることは忘れなかった。
「ロラン!」
 彼はその洞穴にいるはずの者の名前を呼んだ。しかし、返事はなかった。
「ロラン! まさか、本当に…?」
 すると、奥の方から呑気そうにあくびをする声が聞こえてきた。
「ふあ~誰だい?」
「ロラン、無事だったのか!」
「なんだディマンシュか。どうしたんだ。汗びっしょりじゃないか。」
 ディマンシュは額と顔の汗を手で拭いながら言った。
「よかった…。君が生きてて本当に…。」
「おいおい、いったいどんなでまかせを聞いてきたんだ?」
「実はアンデューズの広場で、君が殺されたという歌を歌っていた吟遊詩人がいたんだ。」
「はあ?」

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