第54話 停戦の果実-1

 1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。迫害に耐えかねたユグノーによって「カミザールの乱」が引き起こされ、南フランスのセヴェンヌは2年にわたり反乱軍の影響下にあった。 宮廷が新たに派遣したヴィラール元帥は、これまでとは全く違った戦略をとり、カミザールの首領の一人ジャン・カヴァリエと接触して和平会談をおこなうことに成功した。


 五月十六日のジャン・カヴァリエとヴィラール元帥との会見以来、セヴェンヌにひとときの静寂が訪れた。それはヴィラール元帥がカミザールとの停戦を一方的に宣言したためであった。ジャンはまずニームの町に住むユグノーの住民に和平の到来を説いた。彼らの中には長らく続く戦乱に倦み疲れた者が多く、ほとんどの者がこの提案に賛成した。一方、ロランやカスタネに指揮されたカミザールの最も大きな部隊は山中の洞窟や森の奥の隠れ家に潜みながら新しい元帥の動向をうかがっていた。
 ニームの住民たちの歓迎を受けてジャンとアルはすっかり自信を深めた。
「アル、みんなにおれたちの言うことがわかってもらえたようだな。」
「ああ、やっぱりみんな平和を求めていたんだ。」
 二人は満足げに顔を見合わせて微笑みあった。
「ところで、君はヴィラール元帥との会見が成功すれば彼女の実家に挨拶に行くとか言っていたはずだが、まだ行ってないんじゃないか。」
「あ、ああ…。」
「なぜ行かないんだ。彼女をそこで待たせているんだろ。」
「そうなんだが…。」
「おい、これはもう君たちだけの問題じゃないんだぜ。君が本当にルール家で歓迎されるのかどうか。エガリエ男爵とヴィラール元帥の言ってることが本当かどうかが試されるんだ。」
「なるほど。」
「これから山にこもっている仲間たちの所に話に行くんだ。いい話は少しでも多い方がいい。」
 アルがシャルロットをいったん実家に帰らせたのは、自分だけが幸せに浸る事への罪悪感からであった。そして、ディマンシュと別れた時は明らかに自分の方が正しいと思ってはいたが、彼とあんな別れ方をしたことに対する後悔の念がひしひしと湧いてきたからでもあった。それで、ヴィラール元帥との会見の成功を条件に定め、それを達成することによってそれらの念を振り払い、すっきりした気持ちで堂々と彼女と彼女の家族に会いに行こうと考えたのであった。しかし、いざヴィラール元帥との会見が成功した後でも、自分でも何と説明していいのかわからない躊躇の気持ちがふつふつと湧いてきたのだった。しかし、今やルール家で自分がどう扱われるかどうかを確かめることは任務の一環となったのである。
「わかった。それなら心おきなく彼女のところに行かせてもらおう。」
 そう言ってアルは身なりを整え、ルール家へと向かった。

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