第33話 昔なじみ-1

これまでのあらすじ
 1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。これまで共存していたユグノー(カルヴァン派のプロテスタント)とカトリックの人々との間には、深い対立が生じることになった。多くのユグノーがフランスから亡命し、あるいはカトリックに改宗していったが、南フランスのセヴェンヌには、心の底から改宗したのではない人々が数多く存在していた。

 しかし、セヴェンヌのバヴィル知事やシェーラ司祭は、ユグノーに対して過酷的な弾圧をもって報いた。ユグノーの青年ディマンシュは、信仰を禁じられた状況をどう打開すればよいのか、その道を探るために、カルヴァン派の本拠地ジュネーヴへと旅立っていった。ディマンシュの従弟アルはセヴェンヌで暮らしながらカトリックの貴族の娘シャルロットとの愛を育み、困難を乗り越えて結ばれる。しかし、彼女の父親に見つかってしまい、二人は無理矢理引き離される。しかし、彼女の父親は、アルに自分の息子アドルフとラテン語で議論して勝てば、二人の結婚を認めるという条件を出す。アルはその条件を満たすために、必死でラテン語の勉強をする。

 一方、セヴェンヌの人々はカルヴァン派の本拠地ジュネーヴから説教者としてポワーヴルを招聘した。ジュネーヴ学院の学業においてはふるわなかったポワーヴルだが、説教者としてセヴェンヌの人々の心をつかみ、村人たちの願いを次々と実現させていく。


 ポワーヴルがセヴェンヌで説教者の任務に就いてから三年が経過しようとしていた。この間、セヴェンヌの住民の間では、死者を蘇らせる奇跡を行う者がいるという噂がひそかにささやかれたが、それが誰であるのかが明らかにされることはなかった。彼の活動に励まされて、密かに第二、第三の説教者がセヴェンヌの住民の中から出てきた。
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 ところが、いつの頃からか、その奇跡の主は、実はシェーラ司祭であるという噂がどこからともなく広まりだした。
 シェーラ司祭はバヴィル知事の絶大な信頼の下に、宗教事件に関する警官と検事と裁判官と獄吏の役割を一手に引き受けていた。これほど多くの職責を果たしながらも、彼は司祭としての役割をもおろそかにすることはなかった。彼は瀕死の重病人がいるという話を聞けば、終末の秘蹟(ひせき)を行なうために必ず足を運んだ。特に「新改宗者」に対してはとりわけ熱心であった。病人が司祭の到着に間に合わず息を引き取ったとしても、彼は少しもあわてることはなかった。彼がおもむろに儀式を始めると、死んだはずの人間が再び呼吸をしはじめるのであった。そこでシェーラ司祭がかつてユグノーであったことの懺悔を求めると、その言葉に反応し、それからまた静かに息を引き取るのであった。たしかに息を引き取ったはずの遺体の胸が上下に動いているところを見たという者が何人もいたのである。
 こうした不可思議な光景は、「新改宗者」とは呼ばれていても心から改宗したわけではない人々の間にも少なからぬ動揺をもたらしていた。シェーラ司祭の儀式を目にして、心から信服する者もおれば、神の奇跡ではないにしろシェーラ司祭は何か底知れぬ異様な力を持っているとして恐怖におののく者もいた。いつしか彼には「魔術師」というあだ名がつけられ、人の生き死にを自由に支配できるとも、本人は不死身であるとも言われるようにまでなった。

(写真はセヴェンヌの山並み)

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