第22話 歌の中の歌-1

これまでのあらすじ
 1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。これまで共存していたユグノー(プロテスタント)とカトリックの人々との間には、深い対立が生じることになった。
 カトリックの貴族の少女シャルロットは、ユグノーの少年アルと心を通わせるが、ナントの勅令の復活を約束した伯爵と結婚しようとする。しかし、ジュネーヴで勉学に専念していたアルの従兄ディマンシュがフランスに戻ってきて、二人のために尽力し、伯爵とシャルロットの結婚式を、伯爵が慰み者にしてきた気の毒な女性ヴィクトワールとの結婚式にすり替えてしまう。  そして、ディマンシュはあらためてアルとシャルロットのための結婚式を行なうことを提案する。
 
 ガブリエルは、最近のアルの様子が気になっていた。シャルロットと会えるようになった頃のような溌剌とした表情が消えてしまっていたのである。母親の前では、明るく振る舞って見せるのではあるが、その様子には無理やりそうしているような不自然さが感じられた。ガブリエルはそんなアルに痛々しささえ感じていた。
『どうも、シャルロットとの仲がうまくいっていないようだね。しかも、それをあたしに相談することすらできないのかい。やれやれ…、どうにかならないものかねえ。』
 そう思い病みながらも、ガブリエルの手は籠作りに余念がなかった。栗の木の皮を薄く剥いでそれを編み合わせてさまざまな形の入れ物を作るのである。作物の取り入れの時期が終わり、冷たい季節風の吹くころには、家の中でこのような手仕事に従事するのが、この地方の常であった。
 しばらくすると、戸をたたく音がした。
「アルかい? お帰り。」
 戸を開けて入ってきたのは、アルとそしてシャルロットであった。
「母ちゃん! おれもう決めたんだ。シャルロットをおれの嫁さんにするってことを。」
「おばさま。いいえ、今日からは、もう、おかあさまと呼ばせてくださいな。」
「まあまあ、いったいこれはどうなっているんだい。」

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この記事へのコメント

2007年09月01日 10:42
そういえば、1685年と言えば、忘れもしない、私の大好きなヨハン・セバスティアン・バッハが生まれた年でした。この物語の時代にますます興味がわいてきました。
沢里尊
2007年09月01日 13:54
いきなり話が急展開。しかしディマンシュの実習かもしれないから、喜ぶのはまだ早い。
さあ、ドッキドキの章。楽しみです。すずなさんの得意分野と言うか、水を得た魚。空に舞う鳥。馬に乗った武豊。
2007年09月02日 09:45
クロさん、いいことを教えてくださってありがとうございます。1685年がバッハ生誕年とは気がつきませんでした。アルやディマンシュよりも若いんですね。
2007年09月02日 09:52
沢里さん、ディマンシュは本気ですよ。もう少しで結婚させられるところだったのですから、ここはもう「既成事実」を作るしかないというわけです。
えっ、そんなに期待されていますか? でも、ディマンシュがたくさんしゃべりたがるので前置きは長いです。おまけにアルもいろいろと言いたいことがあるみたいです。

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