第19話 陥穽-1
これまでのあらすじ
1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。これまで共存していたユグノー(プロテスタント)とカトリックの人々との間には、深い対立が生じることになった。
カトリックの貴族の少女シャルロットは、かつてユグノーの青年ディマンシュに恋をしていたが、きっぱりと断られる。ディマンシュは、フランスで何か大事件が起こったらすぐに帰ってくると言い残して、学問を修めるために、ジュネーヴへと旅立っていった。
それから2年あまりが経過し、シャルロットは、彼女を以前から愛していたディマンシュの従弟アルと互いに心を通わせるようになった。
アルとシャルロットの新しい関係が始まってしばらくしてから、ジュネーヴ学院にいるディマンシュに一通の手紙が届いた。それはガブリエルからのものであった。
「おばさんからとは珍しい。まさかアルに何かあったのだろうか?」
ディマンシュはそうつぶやきながら急いで封を切り、中身に目を通した。その手紙はたしかにアルに起こった出来事を伝えていたのだが、それはディマンシュが予想したような不吉な内容ではなく、むしろ喜ばしいものであった。それでも、最初はその手紙に書いてあることが信じられなくて、アルとシャルロットが再会し新しく親密な関係を築き始めているということが書かれているのだという事実を確認するまでには、その手紙を何度も何度も読み返さなければならなかった。
そして、彼は手紙をそっと折りたたむと、祈りを奉げ始めた。
しかし、そのディマンシュの祈りを妨げるかのように、突然部屋の扉が開いた。入ってきたのは、手にいっぱいの古着をかかえたポワーヴルであった。
「おや! なんて珍しい。君が涙ぐみながら祈っているなんて。」
左下のBordeaux(ボルドー)が、ディマンシュの故郷。
中央右のスイスのGeneve(ジュネーヴ)がディマンシュの現在地
中央下のMontpellier(モンペリエ)の北の緑色の部分が、アルとシャルロットの住んでいるセヴェンヌ
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