第15話 手紙-1

これまでのあらすじ
 1685年のナントの勅令の廃止以来、フランスでは宗教弾圧の嵐が吹き荒れていた。そんな中、ディマンシュは初心に戻って学問を学び直そうとジュネーヴ学院へとやってきた。しかし、彼の「ディマンシュ」と言う名前を禁じる規則があるために、教師や他の学生と軋轢をおこしてしまう。
 学院の祭りで上演する劇『スザンナ』の配役で、ディマンシュには女性の役があたってしまう。これは彼を嫌った学生たちの嫌がらせによるものであった。結局、その劇はいかがわしいものと判断され公開を禁じられた。その過程で、ディマンシュに嫌がらせをした学生がその見苦しい本性を露呈して他の学生に批判される。一方、ディマンシュは、預言者ダニエルの役を堂々と務め、大評判となる。
 しかし、彼自身はそうした「人気」を疎ましく思い、またその事件以来、高齢のガトー師がディマンシュのことを「ダニエル」とばかり呼ぶようになったことに苦々しい思いをしていた。そこへ、学生ポワーヴルが冗談を言ったことで、ついむかっ腹をたててしまう。


 ポワーヴルは少しもたじろがず、飛んできた墨壺を、中の墨汁を一滴もこぼすことなく、はっしと片手で受けとめた。こうした手練の技に関しては、元軍人のポワーヴルの右に出る者はなかった。
「やれやれ。もう少しで、あとの清掃がたいへんになるところだった。君の嫌う無意味なことに時間を費やすことになってもよかったのかい?」
 ディマンシュは少し落ち着きを取り戻し、ポワーヴルに対して言葉以外のもので反撃をしたことを後悔した。
「君と話をすることこそが、最も無意味な時間の浪費だ。」
 ディマンシュはまた言葉を返し始めたが、この領域でもポワーヴルは決して負けてはいなかった。
「いやいや、そうじゃないことを証明して見せよう。ぼくは何の意味もなくこの部屋を訪れたわけじゃない。ぼくは君宛ての手紙が来ていたことを知らせてやろうと思ったんだよ。」
「手紙? そんなものは煩わしいだけだ。」
「君にとって、手紙とは、そういうものでしかないのかい?」
 ポワーヴルはあきれたように言った。

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