第14話 スザンナ-1

これまでのあらすじ
 1685年のナントの勅令の廃止以来、フランスでは宗教弾圧の嵐が吹き荒れていた。そんな中、ディマンシュはそういう状況に対処できるようになるために初心に戻って学問を学び直そうと、フランスを離れてジュネーヴ学院へとやってきた。しかし、ジュネーヴでは彼の「ディマンシュ」という名前は禁じられており、そのことを巡って、教師や他の学生達と軋轢を起こしてしまう。
 しかし、学院の図書館では、探し求めていた『自由の法』の手がかりをつかみ、また、老教師ガトー師の取りなしによって、学生の一人ポワーヴルとの和解のきっかけを得る。


 ジュネーヴ学院の学生には定期的に奉仕の当番が回ってくる。当番に当たった者は、その時々で、あちこちの教会の装飾窓の清掃や雨漏りのする屋根の修繕等々、若い男性の筋肉の力を期待される仕事に従事することになっている。
 ある日、その奉仕の仕事を終えてジュネーヴ学院へ帰る途中で、ポワーヴルはこの上もなく鼻孔を刺激する甘い香りが立ちこめる場所に行き当たった。その香りは肉体労働のあとの空っぽの胃の腑にまで達し、さらに彼の頭脳にまで行き渡った。
「ああ、なんていい匂いなんだろう。」
 ポワーヴルは思わず立ち止まってつぶやいた。すると、その家の窓が開き、そこからガトー師が首を出して声をかけた。
「君もいっしょにどうかね。」
 ポワーヴルは招かれるがままに部屋の中に入ると、そこにディマンシュがいるのに気がついた。
「おや、ブライユ君、ちょうどよかった。君とはじっくり話をしたいと思っていたところなんだよ。こんなところでお茶会だったのかい。君はいつも図書館か自分の部屋に閉じこもってばかりしていて、人付き合いはしないというのがもっぱらのうわさだがね。」
「私にお茶会は不似合いだとでも。」
 ディマンシュは食べかけの焼き菓子を喉に押し込んでからポワーヴルの言葉に答えた。
「そんなことは言ってないよ。それより、その他人行儀な話し方はいい加減にやめたらどうだい。ぼくたちは友人になったんだから。」
「いつ?」
「ガトー先生のお言葉に、にっこり笑ってうなずいたじゃないか。忘れたとは言わせないぞ。」
「そうじゃ、そうじゃ。」
 ガトー師はポワーヴルに同意した。

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