第13話 安息日(dimanche)-1

第一部のあらすじ
 1685年、フランスの絶対君主ルイ十四世は、信教の自由を定めたナントの勅令を廃止し、カトリック以外の宗教を禁じた。ユグノー(カルヴァン派のプロテスタント)は亡命するか、カトリックへの改宗を強制された。
 このナントの勅令が廃止された時、ユグノーの青年ディマンシュ・ブライユは14歳であった。それまで熱心なカルヴァン派であった母親がカトリックに改宗したことに幻滅を感じ、家を出る機会をうかがっていたが、19歳の冬、かねてから改宗せずに自分の信仰を守り通していた伯父のオーギュストのところへ旅立った。
 しかしながら、オーギュストはすでに亡くなっていた。失意の彼をオーギュストの妻ガブリエル(ガブ)とその息子で12才の誕生日を迎えたばかりのアルベール(アル)が暖かくなぐさめ、セヴェンヌの山村で三人で暮らすことになった。
 ディマンシュは、オーギュストが生前に翻訳出版しようとしていた『自由の法』(イギリス清教徒革命時代の書物)を求めて、外国の珍しい書物もあるという噂のカトリック教会の書庫に、修道士に変装してもぐりこみ、そこで読書好きのカトリックの貴族の少女シャルロットと出会う。
 シャルロットはディマンシュがカトリックの修道士であると信じて恋をしてしまう。彼がユグノーであることが明らかになった後も、彼女の恋心は消えることなく、彼を求めて今度は彼女が村娘に変装して彼の家を訪問することになる。
 一方、アルもシャルロットに恋心を抱いているのだが、彼女はアルのことを弟以上の存在としてはみなしていない。
 一見平和な日々の中にも、バヴィル知事が送り込んできた間諜とのひそかな闘いがあり、さらには、秘密の礼拝を行なっていた説教者が逮捕されるという事件が起こった。ディマンシュは説教者を釈放させるための手段として、相手側の兵士を人質に取ることにした。
 人質となったのはシャルロットの兄、アドルフであった。しかし、この作戦は失敗に終わる。説教者を逮捕したバヴィル知事は、アドルフの父ルール氏がユグノーや農民にたいして融和的であることにかねてから不満を抱いており、その息子が人質になったからといって何の痛痒も感じていなかった。
 かくて、説教者の処刑は執行され、ディマンシュは無力感に苛まれる。しかしながら鬱々とした日々を送っていたディマンシュに“天使の啓示”が訪れることになる。朝目覚めると丸坊主頭になっていたディマンシュは、ジュネーヴで学問を学びなおすことを決意し、ガブリエルとアル、そしてシャルロットに別れを告げて旅立っていった。


画像 栗の木の生い茂るセヴェンヌの山村を旅立ったディマンシュ・ブライユは、スイスのジュネーヴに向けて幾日も山道を歩いた。出発した時には丸坊主であった頭も、旅の間に少しずつ毛が伸び、短い棘(とげ)に覆われた毬栗(いがぐり)のような頭になっていた。
 ジュネーヴとの国境が目前に迫る頃、馬車に乗った商人らしい一家がディマンシュの脇を通り過ぎていこうとした。しかし、馬を御していた若い男が、彼を一瞥するなり車を止め、同行するよう声をかけた。彼は誘われるがままに一緒に馬車に乗ることにした。
 この商人の一行は、国境で特段の取り調べを受けることもなくすんなりと通された。例の若い男が国境の警備担当者に手慣れた様子で何かを渡していたのを、ディマンシュは見逃さなかった。
 この若い商人以外の人々はよく見ると不安と緊張の面もちをしており、国境を越えるとそれが安堵と歓喜の表情に変わった。彼らはやがて神を讃えだし、そしてこの若い商人に礼を言い始めた。ディマンシュはこの一行が、商人の家族を装った別の目的をもった人々であることに気がついた。そして、このような集団と出会えた幸運に感謝した。
 しかし、その喜びも長くは続かなかった。若い商人はディマンシュに料金を請求してきたのである。純粋に厚意から出た行動だと思ったことが、単なる商売であったことを知って、ディマンシュは不愉快な気持ちになった。
 しかしながら彼はこの請求を拒絶することもしなければ、値切ることすらせず、言われるがままの代金を支払った。もしも彼らと同行しなければ著しい困難があったに違いないと思うと、この男の要求には正当性があると考えたからであった。それに、値切るという行為は、自分も相手と同じように、何事も金銭で推し量る人間であることを証明するもののように思えた。こういう種類の人間といって思い出すのは、故郷ボルドーの母親であり、自分自身も母の元にいればいつしかそうなっていたに違いないと考えるといっそう不愉快な気分になった。
 結局、ディマンシュはこの人物とは二度と関わるまいと心に固く誓った。

 しかし、こうした出来事がもたらした否定的な感情はすぐに吹き飛んだ。レマン湖を臨む見晴らしのよい高台に位置するジュネーヴ学院が見えてきた時、ディマンシュは自分の頬が熱くほてり、胸が激しく動悸を打つのを押さえることができなかった。改革派教会の創始者ジャン・カルヴァン自らの手によって設立された学問の殿堂! 

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この記事へのコメント

ヒッピー
2007年01月01日 01:38
いよいよ始まりましたね!
期待しています。
2007年01月01日 11:36
ヒッピーさん、新年あけましておめでとうございます。
さっそくのお越しありがとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
2007年01月01日 11:54
読者の皆様、あけましておめでとうございます。
新しい年の始めにふさわしく、(若干のトラブルはあったにせよ)希望に胸を膨らませる主人公の姿から始めました。小説の中では8月1日の設定ですが、現在のヨーロッパでは9月から新学期が始まるので、それに準じて、新しい学期の始まりに間に合うようにジュネーヴに到着させました。

2005年12月1日に始めたこのブログも、この1年1ヶ月で総アクセス数16000を達成しました。熱心な読者の皆様に支えられてここまでやってこれたと、感謝しております。今年もいっそう面白い小説を皆様に提供できるようがんばりたいと思います。
皆様今年もどうぞよろしくお願いいたします。
2007年01月01日 22:46
謹賀新年。今年も宜しくお願い申し上げます。すずなさんにとって、最高の一年でありますように。健康で、裕福で、幸運の連続であることを、シャルロットとともに祈ります。「違うだろ少し byガブリエル」
えこひいきはさておき、今年もマラソンレースになりそうですね。すずなさんのタフさは素晴らしいです。
2007年01月02日 10:24
沢里さん、あけましておめでとうございます。
沢里さんにとっても最高の一年であることをお祈りします。
(あれ? シャルロット、いつのまに沢里さんのところに御年始回りに?)
お互い、言葉の武器を鍛え上げて、世界に向けて発信していきたいものです。(ただし日本語のわかる人限定?)

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