幕間――ある“運び屋”の独白

画像 あっしの名はジャン・マシップ。あっしは、親父とまったく同じ仕事をしているだけなのに、親父は真っ当な商売人として一生を終え、あっしは密輸業者として、見つかったら縛り首も覚悟せにゃならんという羽目になっちまった。

 あっしの仕事というのは、荷物を安全確実に目的地に運ぶことさ。それだけなら何も問題はなかろうって? それが、そうじゃあない。あっしの扱う荷は、実は生きた人間なのさ。ユグノーってのをご存知かい? 大きな声では言えないけど、あっしもそのお仲間なんでさ。目的地はたいがいスイスのジュネーヴ、それからオランダやイギリス、時には新大陸までやってくれという要望もあって、なんとか大西洋を渡る船を見つけてやることもあるのさ。

 昔はユグノーがジュネーヴとフランスを行ったり来たりしようが、何の問題にもならなかった。親父はそんな人々の旅の道案内をして、報酬を稼いでいたんだ。親父は生真面目に働きすぎたのか、ある日ぽっくりいっちまった。そこで、あっしは親父のつてを引き継いで同じ商売をやり始めた。
 ところが、その矢先に例のお触れだ。その時からは、フランスにユグノーなるものは存在しちゃいかんし、おまけに国王の許可なしにフランスを離れる者は、男ならガレー船に送られて終身徒刑囚、女ならどこぞの牢獄か修道院で一生監禁されるという運命が待つことになっちまった。だから、あっしの仕事はうんと危険なものになったんだ。なにせ御禁制の品を国境を越えてこっそり運んでいるだもんなあ。

 そんなに危険なら、やめとけばいいって? それが、そういうわけにはいかないのさ。まず、そういう商売を必要としている人間がまだまだいるんだよ。それなら、誰かが引き受ける必要があるってわけさ。しかもな、こりゃ内緒だけど、この商売の実入りは、実のところお触れが出る前よりもずっといいのさ。ハイリスク・ハイリターンってやつだっけ? あっしはイギリスにも行き来しているから、英語にも多少は通じているのさ。

 あっしが利に聡い人間だってのは、本当のことさ。何とでも言うがいい。でもこの仕事を続けている理由はそれだけじゃない。こんな商売をしてるやつがいるってことで、あの馬鹿げたお触れへの、あっしなりのしっぺ返しをしているつもりなのさ。おっと、おまえこそ、そのまたしっぺ返しをされないようにって? 余計なお世話だね!

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