第10話 イソップの言葉―1

これまでのあらすじ
 カトリックの貴族の娘シャルロットは、ユグノーの青年、ディマンシュに恋をするが、ディマンシュの従弟アルは彼女に恋心を抱いており、ディマンシュは彼の後押しをしようと考える。
 彼女が訪ねてきたその時、和やかな雰囲気の中でアルは突然発作を起こす。なにげない会話の中に、アルが依然被った屈辱の記憶を甦らせるものがあったからであった。
 シャルロットは、彼女がディマンシュの気を引くために策略をめぐらせたことが、この少年を傷つけたのではないかと気に病む。
 一方、アルは悩み苦しんだ挙句、かつての体験が自分の人生にもたらす意味を悟る。

 ディマンシュのために持ってきたと思われた本が、その裏に秘められた意図はどうあれ、まぎれもなくアルのための本であることがわかって、アルはその本を熱心に読み出した。いったん読み始めると、アルは話の世界に夢中になっていった。
「アル、面白いかい。」
 ディマンシュが声をかけたが、読みふけっているアルの耳には届かなかった。そこで、読み終わるのを待ってから、同じ問いを繰り返した。
「うん、とても面白いよ。」
「どの話が気に入ったんだい。」
「えーと、まず、この兎と亀の話かな。兎の方がだんぜん亀より速いのに、油断したために亀に負けてしまうんだよね。それから、この鼠の話。せっかく猫に襲われないように首に鈴をつけるっていい考えを出したのに、だれもそれを実際にできないなんてね…。」
「そうだね。」
 ディマンシュは満足そうにうなずいた。
「兎と亀の話は、弱い者でも油断している相手には勝てることがあるっていうことを示しているし、鼠の話は、どんなにいい考えであっても実行できなければ意味がないということを示している。」
「兄貴はこの本知ってた?」
「うん、ぼくも夢中になった時があったよ。」
 ディマンシュはそう答えたが、しかしながら、それが何歳のときであったかは、あえて口に出すことはしなかった。

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この記事へのコメント

2006年08月01日 17:18
前回にはなんとルソー本人が登場して驚きました!虐待というか孤児院送りにしたのでしたね、そうでした。さて子供には本を読ませましょうとよく言われます。親自身が本を好きではないのにどうして子供にその素晴らしさを教えることができるでしょうか。できません。子供達に押し付ける前に、親に本好きになってもらうセミナーなりなんなりが必要かと思います。かつては子供連れの親を尊敬の念で見た私も、今は公衆の面前で子を野放しにするような親が多く、子の人はどんな親だろう、と疑いの目で見てしまいます。あっ、今回はグチっぽくてすみませ~ん。
2006年08月02日 15:10
ネグレクトも虐待の一種ですからね。ついでに申し上げておきますと、ルソーの子ども観はすばらしいですが、女性観についてはまったく駄目ですね。(フェミニストは『エミール』の下巻は読まないほうがいいでしょう。腹を立てずにはおれないのでしょうから。)しかし、それでも、当時としては、ましなほうだったのでしょうけど。
パッセさん、子連れに何か迷惑を被ったようですね。目に余るようなら、きっちり注意してあげる方が、その子のためにはなりますよ。(ただし親に逆切れされる危険性はありますが…。)

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