慧眼なる読者との対話(5)

 第五話までお読みくださった皆様、ありがとうございました。読書を愛する人々から数々のコメントをいただき、とても光栄に思っています。
 次は、ガブリエルが再登場。女たちの魅力全開の『マグダラのマリア』です。どうぞお楽しみに。

「若いくせになんというへたれの男どもであろう。まったく男らしくない連中だ。」
『この人よりもっと慧眼な読者が何人も来てくれるようになったから、そろそろ退散してもらおうかな…。』
「ん? 何を考えておる?」
「い、いや何も…。」
「何か不満があるような顔をしておったぞ。」
「いや、そのご意見はちょっとイエローカードではないかと思いまして。」
「何が。」
「らしいとか、らしくないとかいうあたりですよ。男性の方が行動的であるとか、大胆であるとか、そういうステレオタイプ的なものの見方は時代遅れであり、そもそも真実に合致していないと思いますがね。」
「では、女性の方が大胆で行動的であるとでもいうのかね。それもまた逆のステレオタイプではないのか。」
「でも、私が読んだ小説では、うじうじうだうだしている男が、思いも寄らない女の言動で、断罪されたり、救済されたり、あるいはその両方だったり…、とにかく女によって、閉ざされた堂々巡りにけりが付くようなことがよくありますよ。その逆というのは、皆無ではないにしろ、極めて少ないですね。」
「どうも、非常に偏った小説しか読んでおらんようだ。」
「いやいや、『ファウスト』はまさにそういう小説ではありませんか。」
「“永遠に女性的なるもの”がファウストの魂を悪魔から救い出すという点を言っておるのかね。しかし、ファウストはうじうじなどしておらんぞ。」
「(えー、うじうじしてるやん。)ロシア文学もこのパターンが多いですよ。男たちは往々にして社会や自分に対して不満や悩みをかかえていますが、結局のところ、社会的規範やいわゆる“常識”から、意識の上でも行動の上でも、なかなか抜け出せずにいます。抜け出したかに見えても、結局は釈迦の掌の中でうろうろしている孫悟空のようなものであったりします。しかし、女性は、その動機は恋であることがほとんどですが、しばしばその規範を超越した言動を取るのです。」
「ツルゲーネフの『ルージン』などはその典型だな。」
「私の考えでは、これは、まずもって男の願望というか、甘えですね。しかし、もちろんそれだけではありません。多くの作家がそのようなことを描くのは、そこに何らかの必然性があるからではないでしょうか。というのも、社会規範とは、おおむね女性が損をするようにできていることが多いのです。だから、女性たちがそれに反する行動を取るというのは、まったく自然の成り行きではありませんか。」
「ふむ、その主張の前半については到底肯んぜられないところであり、後半に関してはまったく単純な機械論だな。」

「えっへん。ところで、マグダラのマリアについて解説しておこうかね。どうせ、わしにそうして欲しがっておるのだろう。」

「あ、いえ…。本文中でディマンシュが解説しますから、結構です。」
「まあ、遠慮しなくともいいだろう。新約聖書のルカによる福音書の中にこんな話がある。ある時、イエスがファリサイ派の人物に食事に招かれたが、そこでは足を洗う水すら提供されなかった。ファリサイ派というのはユダヤ教の宗派の一つで、イエスを敵対視していたのだ。イエスもまた、ファリサイ派をひどく攻撃していた。だから、食事に招いたというのも、おそらくイエスのあら捜しをしようという意図からであろうな。すると、一人の女性が現れ、埃まみれのイエスの足を、自分の涙で濡らし、自分の髪で拭き、そして香油を塗ったのだった。当時その香油というのは非常に高価なものだったのだ。ところで、その女性は罪深い女性として評判だった。ファリサイ派の人物はさっそくイエスを攻撃するネタができたと考え、そんな罪深い女に身体を触らせるとは何事かと非難した。しかし、イエスは、その女性が自分にこんなにも親切にしてくれのだからということで、その女性の罪を許したという話だ。」
「ブッブー。」
「何だね、それは。」
「クイズ番組などで、不正解の場合に鳴らされるブザー音です。」
「不愉快だ。いったいわしの話のどこが間違っているというのだ。」
「だから、本文中でディマンシュが解説すると申し上げましたのに。今ここで言うと二度手間になりますから…。」


第五話に関する覚書

1691年2月~3月
場所
ルール氏の屋敷
教会の書庫
バヴィル知事舎

新改宗者の村
ガブリエルの家


登場人物
ディマンシュ(19歳)…主人公
アル(12歳)…ディマンシュの従弟
リュック(60歳ぐらい)…村の世話役
ジェデオン・ラポルト(30か31歳)…仕事熱心な鍛冶屋、意外に愛妻家。

シャルロット・ド・ルール(14歳)…貴族の娘
アドルフ・ド・ルール(19歳)…シャルロットの兄
セザール・ド・ルール(40代半ば)…シャルロットとアドルフの父親
小間使い…ルール家に仕えている女性
料理人…ルール家に仕えている料理人、料理の腕前は上々

バヴィル知事…ラングドックの知事、ユグノーを強制的に改宗させた

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック