第3話 棒の使い道は何通りあるか―1
これまでのあらすじ
ボルドーの酒屋の跡継ぎになることを拒絶して、セヴェンヌの山村にやってきた青年ディマンシュは、亡くなった伯父オーギュストの妻ガブリエルとその息子アルとともに暮らすことになった。
亡きオーギュストとディマンシュとはそっくりの顔立ちをしており、彼の妻も子も村人たちもはじめは死者が甦ったのかと仰天するばかりであった。
似ているのは顔立ちだけでなく、フランスでは禁止されているユグノーとしての信念を貫こうという姿勢もまた共通していた。
しかしながら、ディマンシュはオーギュストとは異なった性格の持ち主であった。金儲けのためならなんでもする母親に育てられ、彼女への反発から、自分の感情を押し隠しつつ、慎重かつ執念深く物事を進める人間になっていた。彼のそんな青年らしからぬ態度にガブリエルはいつかぎゃふんと言わせてやりたいと考えているが、なかなか彼女の思うようにはいかなかった。

本来、歌の好きなガブリエルにとって、ディマンシュがいい声で歌えるというのは、むしろ喜ばしいことであった。朝夕の祈りの時間に彼が朗々と詩編歌を歌う声を聞くのは、とても快かった。ディマンシュも、歌っているときには、これまでになく楽しげであった。ガブリエルとの二重唱をしてみたり、時には、ガブリエルとアルだけに歌わせて、小さな棒を振って拍子をとってやったりしていた。しかし、こういう営みをするには、常に周囲に気を配る必要があった。
特に、詩編歌を高唱することは、非常に危険な行為であった。
(写真はセヴェンヌ地方の昔の洗濯場)
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