|
「単に机から落ちただけのことだ。」 ディマンシュは冷たくそういうと、ポワーヴルに背を向け、机に向かった。その背中からポワーヴルはのぞき込んだ。 「なになに…、『ナントの勅令の意義と限界およびその廃止がもたらす諸結果』…。また難しいものを書いていたんだね。それにしても、こういったものを、いつも製本したかのようにきっちりとまとめておく君にしては、どうしてこんなにしわくちゃになっているんだろうね。散らばっていたのをあわててかき集めでもしたように。」 「いいかげんにしろ!」 ディマンシュは思わずかんしゃくを破裂させた。 「君はどうしてぼくの癪に障ることばかり言うんだ!」 「君のことが心配だからだよ。」 「心配? 何が!」 「このままじゃ、君は病気になるぜ。」 「また何を言い出すかと思ったら…。」 「いや、これを冗談だとは思わないでくれ。」 ポワーヴルはいつになく真面目な表情でディマンシュをじっとみつめた。 「君は周囲からは理性の塊のような人物だと思われているが、ぼくはそうじゃないと思っている。君はむしろ溢れんばかりの情に満ちた人間だ。その情を溢れさせないために君は理性を発達させてきた。そうじゃないか。」 「さあ、どうだか。」 ディマンシュは曖昧な返事をした。 |
| << 前記事(2008/05/13) | トップへ | 後記事(2008/05/15)>> |
| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
|---|
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
「溢れんばかりの情を溢れさせないために理性を発達させてきた」というのは、なるほど、と思いました。ボワーブル君の観察眼と人物評価力は、たいしたものですね。 |
ヒッピー 2008/05/14 09:42 |
大河ドラマ『篤姫』で、尚五郎は当然自分が江戸へ行かれると思ったら、殿が選んだのは西郷。尚五郎が凄いショックでしたね。しかも西郷は親友だから、引きつった笑顔で「おめでとう」。きつい。 |
沢里尊 2008/05/14 20:39 |
ヒッピーさん、ポワーヴル君は、ガトー師の見立て通り、優れた人物なのです。 |
すずな 2008/05/15 00:28 |
沢里さん、なるほど。まったく同じシチュエーションですね。ポワーヴル君はセヴェンヌで説教者として活躍し、ディマンシュはまだもうしばらくジュネーヴで髀肉の嘆をかこつ毎日を送ってもらうことになります。 |
すずな 2008/05/15 00:37 |
言っておきますけど、ぼくは脚に贅肉などついていませんから。 |
ディマンシュ 2008/05/15 00:50 |
| << 前記事(2008/05/13) | トップへ | 後記事(2008/05/15)>> |