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第10話まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。題名どおりの、ほのぼのとした話でしたね。(えっ、違う?) さて、次は「第11話 その時はいつ来るか」です。 「やれやれ、どうも思わせぶりなベタベタした話が続くな。」 「(あっ、しまった。またいつもの人だ。だれか大物ゲストを呼んでおくべきだったかな…。)まあいいじゃないですか。次がかなり深刻な話になるので、ちょっとした息抜きにと思いまして。」 「歴史小説というよりは、これではまるで少女漫画ではないか。」 「(こんなことを言う人に限って、少女漫画をまともに読んだことはないんですからねえ。)すべての少女漫画がベタベタしているわけではないと思いますがね…。でもまあ、それでは歴史小説らしく、ひとつ、この当時の社会の経済的分析をしてみせましょうか。」 「ほお、大きく出たな。」 「と言っても、こういう方面はあまり得意じゃないんですけれど、幸い、ちょうどいい資料がありますので、紹介しておきましょう。ピエール・ロラン氏の『カミザール辞典』に掲載されている、17世紀末のこの小説の舞台になっている南フランスのラングドック地方の司教区別――左から、ラングドックの州都モンペリエ、その北方のマンド、ラングドック第二の都市ニーム、アルたちが住んでいる村が属しているという設定のアレス、その北東のユゼス――の人口統計です。」 「まずは、宗旨別の表を見てみましょう。上から貴族の旧来のカトリック、貴族の新しいカトリック、その他の旧来のカトリック、その他の新しいカトリックと分けられています。注釈に、貴族の数は世帯数を示しており、その他の数は女性や子どもも含む個人の数を示しているとあります。」 「新しいカトリックというのは、何かね?」 「これは、『新改宗者』の同義語です。つまり、1685年にナントの勅令が廃止されるまでは、ユグノーだった人々のことです。法律によって強制的にカトリックとみなされるようになりましたが、このように統計的に歴然と区別立てされています。この表を見ると、アレスとニームが他の地域とは異なる特徴を示していることがわかります。」 「この二つの地域は、『新しいカトリック』の割合が際立って多いな。」 「ええ、アレスでは人口の過半数を占め、ニームではほぼ1:1です。これは数多くのユグノーが亡命した後の状況ですから、もともとのユグノーの割合はもっと多かったと思われます。一方、モンペリエでは1:2、マンドでは1:7、ユゼスでは2:7と、いずれも旧来のカトリックの方が多数派です。」 「次は、社会的地位別の表です。上から、貴族、ブルジョワ、商人、職人、農民、女性、子ども、物乞い、という区分けがなされています。この統計では、女性と子どもが一括されている点などの欠点がありますが、大雑把な傾向はつかめると思います。」 「それは、女性と子どもが成人男性に社会的に従属しているからかね。」 「たぶん、そういうことなんでしょうね。経済的にも政治的にも女性の権利というのはなかなか認められてきませんでした。」 「物乞いの数はこんなに多いのかね。」 「ええ、私もびっくりしたのですが、最も多いモンペリエで、全人口の3.4パーセントを占め、最も少ないアレスでも1.6パーセントを占めています。女性と子どもの数を差し引いて、成人男性だけの統計にすると、最も多いモンペリエとマンドで20パーセント、最も少ないアレスでも9パーセントの人々が物乞いをして生活しているということです。」 「想像するだけでも、ひどく貧しい社会だという感じがするな。」 「その一方で、どの地域にも数百人の貴族がいます。貴族と物乞いでは、その生活水準と社会的地位において雲泥の差がありますが、どちらも自分の労働で生活してはいないという点が共通していますね。」 「一方はそれを特権として享受し、もう一方は余儀なくされた事情で働きたくとも働けないというわけだな。」 「この当時は、制度としての福祉などありませんでしたからねえ。特権層や富裕層には、年金がありましたが、貧困層は相互の助け合いぐらいでしょうか。本来、教会の『十分の一税』が、そういう相互扶助の基金として位置づけられていたはずなのですが…。」 「ニームとアレスは、宗旨においても特徴的であったが、この社会的地位においても特徴があるな。フランスは農業国だというイメージがあるが、ここでは職人がずいぶん多い。」 「そうですね。このあたりは、羊の毛をすいたり織ったりといった羊毛産業が盛んなのです。しかも、この二つの地域は…。おっと、これ以上のおしゃべりはやめておきましょう。」 「ふうむ、肝心のところで口を閉ざすとは…。」 「だってまだまだ先の話なんですから。」 「第11話では、そういった話は出ないのかね。」 「片鱗は出てきますね。注目すべき新しい人物も登場しますし、しばらくご無沙汰していた人物も登場します。第11話は9月1日から開始しますので、お楽しみに。」 表の出典 Pierre Rolland著 "DICTIONNAIRE DES CAMISARDS" Les Presses du Langdoc1995年出版 (p.253より) 第10話に関する覚書 時 1691年5月 場所 ガブリエルの家 シャルロットの通う教会 村の道 ガブリエルの家の畑 登場人物 ディマンシュ(19歳)…ユグノーの青年。必要だと思ったことは何でもできる有能にして優秀な青年だが、自分の爆睡体質だけは直せない。なぜか女性とは交際しないと公言している。 アル(12歳)…ディマンシュの従弟で、素直で心優しい性格の少年だが、悩み多き思春期に突入。彼自身はシャルロットを愛しており、シャルロットの心をつかもうという決意に燃えているが、なかなか思うようにはいかない。 ガブリエル…「嵐を呼ぶ主婦」。アルの母親で、ディマンシュの義理の伯母。死んだ夫オーギュストを心から愛している。 ピエール・セギエ(30台半ば)…元車大工であったが、今は仕事を失い、物乞いをしている。熱烈なユグノー。 シャルロット・ド・ルール(14歳)…カトリックの貴族の娘。好奇心いっぱいの恋する娘。ディマンシュがユグノーだと知っても、自分の恋を諦めようとしない。 物乞いたち |
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