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help リーダーに追加 RSS 慧眼なる読者との対話(8)

<<   作成日時 : 2006/06/30 11:09   >>

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 第8話まで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。どんな状況の下でも、人は、飲み食いをしたり、おしゃべりをしたりして生活を楽しみます。中途半端なところで終わった第8話ですが、次は「第9話 口づけの記憶」です。

「ついにロマンチックな展開になるというわけだな。」
「誰もがそう思いますよねえ。でも、おそらくはすべての人の期待を裏切る結果になるかと…。ああ、こんな内容で、こんな題名を思いつくなんて自分が恐ろしい…。いや、これは霊感(インスピレーション)として頭の中に降りてきたもので…。」
「自己陶酔に陥るのはいい加減にして、前回の宿題の方をさっさと片付けたらどうかね。」
「でも、あまり読者の方の興味を引くような内容じゃありませんからねえ。この小説の筋立てにはほとんど影響のないところなんですよ。こんな細部にこだわってしまうなんて、はっきり言って、おたく以外の何者でもないですね。漫画やアニメの細部にこだわる人は“おたく”と呼ばれ、歴史や小説の細部にこだわる人は“研究者”とか“批評家”とか呼ばれ、その社会的評価には雲泥の差があるわけですが、この両者に本当に質的な違いがあるのか、私には甚だ疑問ですね。」
「前置きはその程度にしたらどうかね。」
「は、はい。前回の宿題というのは、私が楡の木同盟について間違ったことを書いていたという話でした。オーギュストの少年時代の経歴を書いた「第2話 幻影と現実―13」では、次のようにあります。

 数年後、ボルドーで王制を打倒し共和制をめざす「楡の木同盟」が結成された。オーギュストはその最年少の同盟員となっていた。しかし、貴族を中心とした他のフロンド派のめざすものは王制の打倒ではなかった。彼らはただ自分たちの特権が王に剥奪されることに反抗していただけであり、王と共に貴族をも否定する共和制の要求など、認めるわけにはいかなかった。かくて、“家庭教師”は暗殺され、「楡の木同盟」は中心人物を失い壊滅した。

「申し訳ありません。実はこの設定をこしらえた時、楡の木同盟については、イギリスのレヴェラーズと直接の関係を持っていたことと、共和制と普通選挙の実現を綱領としていたことしか、知らなかったのです。特に、どれだけの規模の組織で、どんな活動をして、いつどのように壊滅したのかについて、調べてみたのですが、どうも見つからなかったので、どうせごく小さな組織ですぐに壊滅したに違いないと勝手に想像してしまいました。それで、オーギュストは、楡の木同盟が壊滅してからイギリスに渡ったところ、レヴェラーズからは冷たいあしらいを受けて幻滅し、その後ディガーズに参加するということになったわけです。ところが、楡の木同盟が壊滅するのは1653年7月であることがわかってしまいました。それに対して、ディガーズ運動の壊滅は1650年4月で、その指導者ウインスタンリーは『自由の法』を記した1652年以降、消息を絶つわけですから、楡の木同盟よりむしろディガーズの方が短命だったのです。」
「で、どうするつもりなのだね。」
「しかし、今さらこの設定を削除するのもなんだし…、ということで、最後の行を次のように書き改め、次のように続けていこうと思っています。」

 かくて、“家庭教師”は暗殺され、「楡の木同盟」は中心人物を失い、危機に陥った。
 オーギュストは人生初めての師を失った。しかし、彼の遺志を受け継ぐことが自分の使命だと考えたオーギュストは、まずレヴェラーズの本拠地イギリスに向かい、そこで、組織を立て直すための新たな方針を得ようとした。

「…、というわけで、以前の設定だと、絶望してどうしようもなくなってイギリスに渡るという感じでしたが、むしろ積極的な目的を持ってイギリスに渡るという話にすることができて、ほっとしました。いやあ、インターネットって便利ですねえ。」
「まったく自分の不勉強を棚に上げて…。」

第8話に関する覚書

1691年4月
場所
ルール家の屋敷
ガブリエルの家

登場人物
シャルロット・ド・ルール(14歳)…カトリックの貴族の娘。好奇心いっぱいの恋する娘。ディマンシュがユグノーだと知っても、自分の恋を諦めようとしない。
セザール・ド・ルール…カトリックの貴族。シャルロットの父親。自分の父親のことをシャルロットに知られまいとしている。
エガリエ男爵…ユグノーの貴族。ルール氏およびその父親とは深い関係にある。フランスでの迫害に耐え切れずジュネーヴに亡命する。ルール氏の息子アドルフと同じ年の親戚の青年がジュネーヴにいる。
ルール家の執事と小間使い
ディマンシュ(19歳)…ユグノーの青年。必要だと思ったことは何でもできる有能にして優秀な青年だが、自分の爆睡体質だけは直せない。なぜか女性とは交際しないと公言している。
アル(12歳)…ディマンシュの従弟で、素直で心優しい性格の少年だが、悩み多き思春期に突入。彼自身はシャルロットを愛しているが、シャルロットの心が自分ではなくディマンシュにあることを感じている。
ガブリエル…「嵐を呼ぶ主婦」。アルの母親で、ディマンシュの義理の伯母。死んだ夫オーギュストを心から愛している。

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コメント(4件)

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章のまとめの時に登場するこの人物は一体何者なのか?かなり博識な方ですが・・・。謎は深まるばかり。興味が尽きません。
パッセ
2006/06/30 21:34
この人物の正体は、特に謎めいたことは何もありません。
もしも私が男で、そしてアカデミーの世界に入っていたら、きっとこんな人物になっているだろうという想像のもとに描かれた人物です。
すずな「そうですよね。」
慧眼なる読者「そうだったのか?」
すずな
2006/07/01 09:56
またお邪魔します。「慧眼なる読者との対話」は、小説の内容に劣らず興味深いものがあります。歴史小説というのは、史実との関係がなかなか大変ですね。特に歴史に精通している人の目から見ると、何だこれは!と思われる場合があると思います。そういう歴史考証を緻密になさっていることに感心しきりです。歴史小説は史実に忠実な範囲におさまらなければならないわけではないと思います。でも、史実を無視するのもいただけないと思います。史実と歴史的限界の枠内で想像をたくましくして創作するというのが、すぐれた歴史小説だと思います。そのあたりの歴史的なリアリティーぎりぎりのところで勝負するというのは、so great! だと思います。
ヒッピー
2006/07/03 23:59
ヒッピーさん、どうもです。このコーナーは、初めは、予想される批判に対する作者の言い訳のようなものとして始まったのですが、そのうち、元々小説の中にあった解説の中で、小説の展開を妨げてしまうようなくどくどしたものを、外部に出してしまうことを思いつき、そして、「慧眼なる読者」にはある時は教養たっぷり、ある時はへまな質問者として振舞ってもらっています。
この小説がどれだけ史実に忠実であるかどうかに関しては、実のところ、日本でそれがわかる人は非常に少ないと思います。というのも、この小説が描こうとしている事件について描かれた日本語の文献が非常にわずかしかないからです。そういう意味では、この時代を選んだのはちょっとずるいかもしれません。しかし、少ない資料の中でも、できる限り史実に忠実であることを追及していこうとは思っています。
もちろん、小説である以上、史実そのままではありません。特に、これまでの叙述のほとんどは私の想像の産物です。それがリアリティーをもって受け止められているとすれば、とてもうれしいことです。
すずな
2006/07/04 14:24

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